特別企画・Hi-Fi VIDEOの部屋

最終更新日1999年3月7日


【概要】 参考文献・ビデオ技術ハンドブック・電波新聞社刊

 手元にたくさん資料があるので、特別企画として各社ハイファイビデオ一号機を取り上げます。
 結果的には単なるカタログ集になってしまいました。(^o^)

 家庭用ビデオのテープ走行スピードはベータ方式では40mm/s(β1モード)、VHS方式では33.3mm/s(標準モード)である。
 両方式とも全テープ幅は12.65mmで共通である。
 このうちオーディオトラックが占める幅はベータ/VHS両方式ともステレオモードで1chあたりわずか0.35mmしかないのでドラマなどの肉声を録音するのならともかく、音楽を録音するにはあまりにも貧弱で力不足である。
 再生時の周波数特性はVHS標準/β2モードで50Hz〜10kHz程度で、VHSの3倍モードやβ3モードでは高域はせいぜい8kHz程度までである。
 しかも、このスペックはモノラル録音時のものである。
 ステレオ録音時には1chあたりのテープ幅が半分になるので、さらにスペックはひどいものであった。
 テレビ放送では20Hz〜15kHzの周波数特性があるので、記録波長上では長時間モードで使うと元の半分も記録できないものである。
 ノーマル音声ビデオでもステレオタイプでは音声処理にノイズリダクション回路が装備されていた。
 ベータ方式ではベータグループ独自開発である圧縮伸張方式のベータノイズリダクションを採用していた。
 当時、カセットデッキにおいて独自NRを推進するメーカー(東芝はadres、三洋はsuper-D)がベータ陣営だったため、ベータ陣営はNR無しの機種との音声互換を捨ててまで圧縮伸張方式NRにこだわった。
 圧縮伸張方式のNRを使用して録音したテープをNR無しの機種で再生すると、音声は高域も低域も不自然な音になってしまっていたはずである。
 筆者は同じ圧縮伸張方式のdbxエンコードされたテープを誤ってdbx無しのモードで聞いてみたことがあるだけだが、多分、ベータNR無しの機種で再生したときもこれに近いひどい音になっていたことだろうと想像している。
 どのような音かというと、音声の再生ピッチは正しいのだが高音と低音とでレベル差が激しく、音のこもりが著しいのである。
 VHS方式ではカセットデッキでおなじみのドルビーNR回路(B-type)を採用していた。
 ベータ/VHS両方式ともNRを用いてもやはりノイズが多く、非常に音質は悪かった。
 上述の通り、マイクロカセットテープ以下の記録幅しか確保できないのだからしかたがないのである。
 80年代中期まではビデオテープの価格も高かったのでそうそう何本も買える代物ではなく、標準モードで使用する事はよほど裕福な人に限られていた。
 ほとんどの家庭では長時間モードで使わざるを得なかったが、そうなるとますますビデオの音は聴くに耐えられないものであった。

 そこで登場したのがハイファイビデオ。
 ベータや8ミリ方式ではFM変調した音声をビデオ信号に重ねて記録するもので、AFM(Audio Frequency Modulation)方式と呼ばれている。
 一方、VHS方式ではやはりFM変調した音声をビデオトラックとはアジマスを変えて専用オーディオヘッドで先行記録し、ビデオ信号はその上に記録するという深層記録方式というもの。
 両方式ともスペックは以下のようなものであった。

周波数特性:20Hz-20kHz
ダイナミックレンジ:80dB以上
ワウ・フラッター:0.005%以下(測定限界以下)

 スペックはすばらしいが、耳のいい人にはスイッチングノイズが気になってしかたがないという。
 パラパラ漫画の原理である映像と違って連続量の音声信号をむりやりぶつ切りにして記録しているのだから無理もないのだが。

 全世界を巻き込んだベータ対VHSの家庭用ビデオフォーマット戦争。
 その真っ只中で生まれたハイファイ音声。
 1983年4月、ソニーのSL-HF77を皮切りにベータ陣営がハイファイビデオとしては先行した。
 既にかなりVHS陣営に押されていたベータ陣営の起死回生の策であったが、VHS陣営の松下の技術陣の努力もすさまじく、深層記録という画期的な方式でVHSでもハイファイ音声を乗せることに成功した。
 ここで事実上、VHS陣営の勝利が確定したと言えよう。
 結果的にはこの1983年限りでベータ陣営は崩壊した。

 VHSハイファイ一号機の松下NV-800にはdbxノイズリダクションが採用されていた。
 当時のテクニクス製カセットデッキにもdbxは採用されていたので、松下一号機にdbxが採用されたのも当然の流れであった。
 しかし、他のVHSメーカーの多くがdbx社とライセンス契約を結んでいなかったため、VHSグループは急遽、dbx方式と互換がある独自の圧縮伸張方式のNRを開発し、松下も二号機以降はこちらのNRを採用した。
 松下一号機のdbxエンコードした音声との互換性は悪かったと聞いている。

 ベータハイファイにも名前はないが、独自のノイズリダクションが使われているという。

 8ミリ方式は最初からAFM音声が採用されている。
 当初はモノラル規格だったが、オプション規格として後にステレオ規格が追加された。
 今ではモノラル音声の機種の方が珍しい存在となっている。
 8ミリにも名無しの圧縮伸張方式ノイズリダクションシステムが採用されているという。


ハイファイ音声記録の簡単な解説

ここでは簡単にしか紹介しない。
詳細はちまたで売られている本を参照してください。

●ベータハイファイ
それまでのノーマルビデオでは音声の記録再生は専用の固定ヘッドによって行ってきた。
発想を転換し、音声を回転ビデオヘッドによって映像といっしょに同じトラックに記録するものがベータハイファイ方式である。
FM変調輝度信号を通常のベータ方式記録波長から400kHz高くして、低域変換色信号とFM変調輝度信号との間に新しく音声のFM搬送波が挿入している。
ビデオトラック上では隣接トラックからのクロストークが問題である。
映像はPIカラー記録方式や傾斜アジマス記録によって改善できたが、音声は別の手法を取っている。
隣接するトラックごとに音声のFM搬送波の周波数を変えて記録し、クロストークを無くしている。
音声1chにつき2波必要となるので搬送波の周波数は全部で4波必要である。

●VHSハイファイ
磁気記録では一度強い磁界で記録された磁気テープに更に記録を重ねるとテープ表面から深くなるに連れて磁化力が小さくなるため、前に記録された信号が消去されずに残り、二種類の信号が同じに記録されることになる。
また記録波長が短い場合に記録ヘッドのアジマスと再生ヘッドのアジマスが異なると減衰が多くなって信号として取り出せなくなる。
つまりテープの同じ場所に信号を重ねて記録されていてもアジマスが異なればそれぞれのアジマスにあったヘッドで再生することで信号は分離して再生できるのである。
この原理を応用したのがVHSハイファイ方式である。
VHSハイファイでは映像信号と音声信号はテープ上の同じ場所に重ねて記録される。
この方式では映像信号の周波数分布をまったく変える必要が無い反面、ビデオヘッドと逆のアジマスを持った音声専用の回転ヘッドが2個必要となる。
音声信号の記録方式はFM変調を用い、搬送周波数は映像への妨害が少ないように1〜2MHz帯域に2チャンネル設定している。

●8ミリ音声
8ミリビデオのノーマル音声は基本的にベータハイファイと同じ原理である。
ただこちらは最初から回転ヘッドで記録するように設計されたため、あらかじめ音声を乗せる周波数を確保してあった。

【各社の1号機】 カッコ内は手持ちのカタログの日付

ベータ方式

ソニー:Betamax SL-HF77 \299,000 (83/5)
SL-HF77

 日本初のハイファイビデオ。
 音声と映像の干渉を避けるために、映像信号領域を400kHzハイバンドシフトを密かに行った。
 そのため、ノンハイファイデッキで再生するとノイズが出ることがあったという。
 リニアタイムカウンターも装備していた。
 この値段でもワイヤレスリモコンが別売だった。
 でも事実上、販売店側でサービスでつけざるを得なかったようだ。
 ノーマル音声もステレオ再生が可能であったが、録音はモノラルであった。
 また、ベータノイズリダクションは未装備だった。
 (この記事はきたむら様の指摘により訂正しました)

三洋:MICONIC VTC-H5 \278,000(84/2)
VTC-H5

 一号機からはやくも登場したキャリングタイプ。
 当時の野外撮影はビデオ一体型カメラなどまだ無い時代なので、大型カメラとキャリングビデオとの組み合わせだった。
 しかし、当然装備は巨大なもので、実際に野外使用されたかどうかは定かではない。
 写真のブラックのほかにレッドもあった。
 レッドが意外にカッコ良く、本当はこちらを紹介したいのだが、カタログの写真があまりに小さいので止める。
 ワイヤードのリモコンが標準でついていた。
 この巨大な筐体を持って野外撮影するには相当な体力が必要だっただろうと想像される。
 カタログ上ではモデルの姉ちゃんが軽々と撮影しているようだが、女性の体力では到底無理だっただろう。

東芝:VIEWSTAR V-L8 \278,000(84/5)
V-L8

 ノイズレス4ヘッド搭載、クリーンスチル&スローを実現。
 ノイズの無い鮮やかな静止画やスローが楽しめた。
 これもワイヤレスリモコンは標準装備だった。
 東芝独自信号による自動テープ頭出し機能もついていた。
 ちなみに84年当時のカタログキャラクターは草刈政雄。
 東芝はその後もキャラクター路線で、薬師丸ひろ子やウルトラマンなど登場した。

以下の情報御提供は矢島様です。
 東芝製ベータハイファイデッキは1号機からベータハイファイの4復調器を採用していた。
 このおかげでベータハイファイはVHSハイファイよりもスイッチングノイズを少なくできていた。
 またダイナミックレンジがそれまでの80dBから一気に10dBも上がり、4復調器を採用したベータハイファイでは90dBとなっている。

NEC:Vistack VC-727 \238,000(83/12)
VC-727

 PCMプロセッサを用いてハイファイ音声と組み合わせたマルチチャンネル録音をカタログ上で歌っていた唯一の機種
 83年に発売された割にはデザインが古めかしく、異様に本体は高さがあった。
 中身はしっかり4ヘッド装備でノイズレスの特殊再生機能が売りだった。
 ところでNECは割と長い間ベータにこだわっていて、東芝も三洋も見向きもしなかったハイバンドベータまで出していた。
 しかもβ1sモード付きで。
 ちなみにNECはCMキャラクターは使っていなかったがVHS転向時に石野陽子を使用した。
 斉藤由貴の登場はその後である。

ゼネラル:TECMAC VGH-800 \198,000(85/3)
VGH-800  今は富士通に買収されてしまったゼネラル。
 84年のカタログにはまだハイファイビデオの登場が無い。
 85年のカタログ登場のこの機種も明らかに東芝のOEMであった。
 ゼネラルブランドの最初で最後のベータハイファイビデオか?
 隣のページにはMSXパソコンの「PAXON」が載っている。

アイワ:AVimax AV-5M+SV-5M \198,000+\60,000(83/11)
AV-5M+SV-5M  オーディオ専業メーカーがいっせいにビデオ界に入ってきた頃の製品。
 外付けベータハイファイアダプタという変わり種。
 ミニコンポサイズで同社のコンポとの組み合わせを推奨していた。
 ワイヤードリモコン、1週間1番組だけの予約録画など、機能的には一世代古い。

パイオニア:HiVista VX-7 \249,800(84/4)
VX-7  ソニーのベータハイファイ2号機のOEM。
 パイオニアのベータビデオ発売は、ソニーのレーザーディスク参入の引き換え条件ではなかったのだろうか?(真相不明)
 カタログでは「ハイファイ育ちのAV自遊人たちへ。」
 ソニーのOEMらしくリモコンが別売(RU-7 \6,500)だった。


VHS方式

ビクター:HR-D725 \298,000(84/3)
HR-D725

 ビクター自身は「ザ・ビデオ」と呼んでいた。
 ただし、84/3のカタログにはそのような記述はない。
 84/6のカタログには突如として「THE VIDEO」というクレジットが入っている。
 値段もさる事ながら、機能の充実ぶりもすごい。
 ビデオ初のサイマルキャスト録音が可能。
 ノーマル音声にもドルビーNR、ハイファイ音声にはHi-Fi VHS専用ノイズリダクション回路だそうです。

日立:MASTACS VT-88 \268,000(83/11)
VT-88

 「聴いてオーディオ、見てビデオ」だそうです。
 シャープのコピーとそっくり。
 日立はCMキャラクターしか印象が無い。
 細川たかしから菊池桃子へと変わる間にやたらたくさんのカタログバージョンがある。

シャープ:MYVIDEO VC-300F \289,000(84/1)
VC-300F

 「聞いてオーディオ、見てビデオ」だそうです。
 日立のコピーとそっくり。
 カタログが実に充実した作りで、なんだかわからないがとてもすごそうなビデオのように思えた。
 クリーンSS4ヘッド装備。
 本体の再生ボタンなどの主要部分がそっくりリモコンになっている。
 これって見た目だけカッコよくて実は使いづらい。
 リモコンをなくしてしまうと操作が何もできない代物だった。

三菱:Fantas HV-80HF \268,000(84/10)
HV-80HF

 日立のVT-88と同型機。
 NTVの太陽にほえろでよく宣伝していた三菱ビデオ。
 HV-F10登場まではなかず飛ばずだった。
 カタログキャラクターは神田正輝からマドンナへと今から見るとすごい変遷ぶりだった。

赤井:VS-X10 \228,000(84/11)
VS-X10

 ビクター製カセットデッキ風にビデオの挿入口が本体右側についていた。
 カタログコピーは「ハイファイメーカー発の、ハイファイビデオデッキ」。
 内蔵カレンダーは1999年までらしいので、あと少しの寿命である。
 古くからカタログ裏面のVHSグループとして名を連ねていた赤井だったが、さっぱり国内市場にはビデオデッキを発売していなかった。
 ハイファイブームに便乗して発売したが、やっぱりだめだったようだ。

松下:MACLOAD NV-800 \289,800(84/1)
NV-800

 VHSのハイファイ方式は松下の開発によるもの。
 そのため、1号機のこの機種ではノイズリダクションにdbxが採用されていた。
 フロントパネル右側に燦然と輝くdbxマークが印象的。
 ソニーとは違って、ワイヤレスリモコン標準装備だった。

デンオン:DENOX VA-75 \235,000(84/11)
VA-75  グループの日立からVT-87のOEMのようである。
 ただしこちらは高級感をかもし出すサイドウッド付き。
 カタログコピーは「沸き上がるダイナミックなサウンドと、鮮明な映像が織りなす、新AV時代。いま、プロ・オーディオの設計者が作った音質重視の先進Hi-Fiビデオ新登場。」

ティアック:MV-100 \298,000(84/10)
MV-100  ビクターHR-D725のOEM。
 中身は同じでもデザインがビクターよりも高級感があった。
 カタログコピーは「音質に、画質に、クォリティを極めた。'FINE SLOW映像4ヘッド&Hi-Fi音声2ヘッド・ハイファイ・ビデオ'ティアックから。」

ヤマハ:YHV-1000 \239,800(85/4)
YHV-1000  松下NV-870HDと同型品。
 ただし、いかにも家電品といった松下ビデオと違い、オーディオ風のシルバーパネルにサイドウッドまでついていて高級感があった。
 カタログコピーは「部屋の中にもうひとつの美しさをひろげます。ヤマハHi-Fiビデオ。」


前のページに戻る

誤記、新情報などありましたら Web Master まで

現在もご使用中の方、感想をお知らせください。