アームとカートリッジの部屋

最終更新日2000年02月11日

【概要】

アナログレコードプレーヤーではトーンアームとカートリッジが交換できました。
今の自作パソコンを思い浮かべてみるとわかりやすいかと思います。
以前は、それこそ単独パーツが星の数ほど発売されておりました。
中でもユーザーが簡単に交換できる針の部分であるカートリッジは種類が多かった。
アームは本来は音質に重要な影響を与えるパーツなのですが、一度取り付けてしまうと気軽に取り替える事ができないため、
あまり買いかえる人はおらず、商売的なうまみもないのでCD時代になって真っ先に消えた市場のようです。
同様にターンテーブルやキャビネットもあっというまに消滅しました。
現在、アナログプレーヤーのパーツで買う事ができるのはカートリッジだけと言ってもいいでしょう。
それももはや風前の灯火。
ごく少ないメーカーで細々と生産しているのみ。
ここでは栄光の時代のいくつかの商品をご紹介しましょう。

ちなみに、筆者はアナログレコードは使いにくいだけで何にもいいところが無いと感じています。
そのような考えなので、アームにもカートリッジにも思い入れが無いのでこの部屋の作りはかなり雑です。


【戸田春男様提供・カートリッジのあれこれ('99/11/23御投稿)】

ステレオ円盤録音

一枚のレコードにステレオ音声を収めるにはいくつかの方法がありました。

   1.音溝を左右独立にする。
   2.音溝の振動方向を縦横で分け、左右に割りふる。
   3.音溝の左右の壁を左右に割りふる。

実際に生き延びたのは、左右が同じ条件になる3.でした。
音溝の壁はレコードの面に対し45度をなしています。
そこでこれを45-45方式と呼びました。
この方式は見方を変えると、「横振動でL+R、縦振動でL-Rを記録する」方式です。
ベルリーナ以降のレコードは横振動だけを利用していましたから、45-45方式でモノラル信号(L=R)を録音すると、モノラル時代のレコードと同じになります。

カートリッジあれこれ

アナログレコードの世界は京極夏彦並の百鬼夜行で、カートリッジ、アーム、ターンテーブル、マット、ホノモータ、トランス、リード線、
ありとあらゆる部分が商売のネタになっていました。
その中でもカートリッジは手軽に交換できるので、複数のカートリッジを並べ、曲や好みで選ぶ、などということを普通の音楽ファンがやっていたのです。
当然これは商売のよいネタになり、さまざまな針、カンチレバー(針を支え、振動子に振動を伝える)、機械−電気変換系が覇を競ったのでございます。

1.圧電型
ロッシェル塩、チタン酸バリウム、ジルコン酸のような圧電素子をカンチレバーに取付ける方法です。
圧電素子は振幅をとれないのでコンプライアンスが小さく、また電磁型と違い、針の変位に比例した出力が出るので、開放端出力電圧が周波数に反比例します。
しかし出力インピーダンスが容量性なので、高インピーダンス負荷にするとほぼ平坦な周波数特性が得られます。
また出力が大きい(0.数V出る。いわゆるラインレベルに近い)上イコライザが不要なので、簡単な「電蓄」に広く使われました。
「クリスタルカートリッジ」、「セラミックカートリッジ」というのがこれです。
ハイファイ用の製品もあり、エレクトロボイス31MD-5、アスタティック45D、国産ではプリモC-60、リオンCS-7Aなどというものがありました。

2.電磁型
電磁型のカートリッジは振動系の振幅をとれるのでコンプライアンスが大きく、針圧を小さくすることができました。
その一方、イコライザアンプが必要でした。

コイルと磁石が相対運動すると発電されます。
それを利用したのがMMとMCで、カートリッジの代表というべきものです。

a) MM (Moving Magnet) 型
コイルが本体にあり、磁石がカンチレバーの先端に着く方法です。
磁石、カンチレバー、ダンパ、針が一体になっており、針交換が容易です。
針を交換すれば振動系が全て交換されることになり、事実上新品になります。
現在のDJマニアが使っているカートリッジはMMかオーディオテクニカのVMでしょう。
数mVの出力が出ました。
アンプのPHONO端子というのは、普通はこのMMのカートリッジを繋ぐための端子です。
動電屋のSHUREが出したロングセラー V-15シリーズが代表選手でしょうか。

b) MC (Moving Coil) 型
磁石が本体にあり、コイルがカンチレバーの先端に着く方法です。
カンチレバーは根元で一点支持されますし、磁気回路も非直線性を少なくすることができるので高音質が期待できる一方、普通は針交換ができません。
コイルを軽くする必要があるので出力が小さく(MMの一桁下)、アンプのPHONO端子に繋ぐには昇圧トランスかヘッドアンプが必要でした(それらを内蔵したアンプも極普通にありました)。
代表格はロングセラーのDENON DL103シリーズとしておきましょうか。

c) リボン型
MC型のコイルを極端に短くするとリボンになります。リボンマイクのカートリッジ版です。

d) バリレラ (Variable Reractance) 型
e) MI (Moving Iron) 型
磁気回路の磁気抵抗を変える方法として、d/eのようなものがあります。
前者はコアに切り欠きを作って、その間隙に高透磁率の振動子を入れる方法、後者はコイルの中で高透磁率の振動子を動かす方法です。
バリレラ型はステレオ時代には余り使われなくなりましたが、ダイナコのステレオダイン、GEのVRシリーズ、国産ではニートVS-700がありました。
MIにはニートVS-455などがありました。

f) IM (Induced Magnet) 型
IM型はMMとバリレラの合いの子のような形式です。
これは強力な磁石で振動子を磁化し、それがMMの磁石の代わりになる方法です。

3.静電型
  コンデンサマイクのような直流バイアスを掛ける製品(ソニー)、交流バイアスを使う製品(スタックス)、エレクトレット式(東芝)がありました。
  特殊なヘッドアンプが必要でした。

4.他
  半導体カートリッジ(松下)、カーボンカートリッジ、光電型カートリッジ(東芝、シャープ、トリオ)もありました。
  極めて特殊なものとして、レーザ光の反射を使う非接触のカートリッジ(?)があり、これは現在でも、特にレコードの長期保存を目指す場合などに用いられています。

5.特許
  MM型はELACとSHURE、ステレオ時代のMI型はADC、MCはORTHOFONが特許を持っていたので、特許料を回避する目的で、オーディオテクニカはVM型を開発しました。
  これはL、R別の磁石を使う方法です。

針のさまざま
LP時代になって、音溝は0.09mm程度の幅になり、これをトレースするための針も細くなりました。
その最大の狙いは軽量化にあり、初期の0.3mm角からどんどん細くなって、DENON DL-1000, DL-1000Aでは0.06mm角と音溝の幅より細くなりました。
当然その先を針の形に研磨してあるわけですが、曲率半径が小さいほど正確に音溝をトレースすることができます。
合言葉は「カッティングヘッドを目指せ」でした。カッターの刃先は直線なのです。
針先の曲率半径は0.7から0.5mil(=1/2000インチ)の丸針から楕円針、超楕円針になり、音溝の壁と接触する部分の曲率半径が小さくなり、かつ溝の底に接触しないようにできました。
さらに4chレコードの落とし子として、シバタ針などのラインコンタクト針が作られました。

普及型の針は接合型で、金属ベースにダイヤモンドのチップを接合してありましたが、高級機は針全体をダイヤモンドで作りました。
更に安価な製品(電畜クラス)はダイヤモンドでなく、サファイヤを使いました。

嫌われ者(??)のカンチレバー
極初期のカートリッジではMIやバリレラで判るように、カンチレバー自体が磁気回路の一部でしたので、パーマロイで作られました。
MMやMCではその必要がなく、軽量で剛性が高く、音速が速く、かつ鳴きがない材質が求められました。
スピーカの振動板並に百鬼夜行で、アルミ、ジュラルミン、ボロン、セラミック、チタン、炭素、サファイヤ、ルビーなどさまざま。
中にはソニーのように針と一体でダイヤモンドを削りだすような病的なものもありました。

一方、カンチレバーを無用にしてしまう方法もあり、MCで針の直上にプリントコイルを付けるビクターMC-L1000や、カンチレバーを全廃して針とコイル直結、コイル自体をサスペンションに利用するイケダ9シリーズまで出てくる始末。
そこまで尖鋭化しなくても、ダイナベクターのようなカンチレバーの長さが2mm以下などというものもありました。

■■■ この投稿に関するQUAD66様とあき様からの御返信 ■■■

名 前   :QUAD66
時 刻   :11月25日00時24分
メール   :quad66@ma3.justnet.ne.jp

戸田様

私も自信があまりない為、資料を漁りましたところ、

1.ADCのカタログにADCのカートリッジはIM型であり、自社特許を強調しています。
 IM型の特許番号がありました#3294405だそうです。
 またSONUSのカタログにもP.E.プリチャードがIM方式の発明者であり
 ADCのオーナー兼エンジニアとして活躍したということが書かれておりました。

2.Empireのカタログは英語版で発電方式は明記しておりませんが図が描かれております。
 私には図を見てもIMなのかMIなのか解りませんでした。但し、特許番号は#2875282と#3441688だそうです。
いずれの特許番号はU.S.PAT.と書かれていました。

カタログはいずれも1975年頃のものです。
(私がオーディオに熱が入っていたのもこの頃まででした。)

そのほかの資料ではSONY-ES-Review誌1973年Vol.12号に載ってました。
誌の中に参考文献として山本武夫著「レコードプレーヤー」日本放送出版協会と書かれていました。

名 前   :あき
時 刻   :11月25日02時18分
ホームページ:

初めまして。
ここには、オーディオ懐古録から来ました。
今まで、ROM状態でしたが、アナログオーディオで盛り上がっているので参加させてもらいます。

まず、IM型とMI型の構造の違いですが、
カンチレバーの上にマグネットが有るものがIM型でADCのカートリッジを見るとカンチレバーの上に金色のマグネットが埋まっています。
MI型の場合、MC型のように本体の磁気回路の中にマグネットが組み込まれています。
OrtifonのVMS型はMI型です。(詳しくは解りません ^_^;)
デッカのV-L方式もMI型です。このカートリッジは、いわゆる45-45方式でなく、水平信号と垂直信号を取り出し、マトリックスによりL/Rの信号を作り出していました。

小型のマグネットが開発される前はマグネットを本体の中に入れるMI型やMC型が造られ、小型高性能マグネットが開発されるとMI型はMM型に移行していきました。しかし、SHUREがMM型の特許を獲得し、これを回避するために、IM型(ADC)などが考えられたというのが全体の流れです。VM型もSHUREの特許にかかりません。

余談ですが、松下社長(オーディオテクニカ社長)がSHUREの特許をうまくかわしたということで、アメリカでVMとは"Victory Matsushita"の略ではないかと言われたそうです。(本当は、V字型に配置したMagnetの意味の様です。又、VM型の目的は、SHUREの特許の問題のほかに、2つのマグネットにより磁気回路を完全分離させ、チャンネルセパレーション、定位、音場感を上げることだそうです。)

ADCで思い出しましたが、ADC、グレースF-8シリーズ、テクニクスのMM型等のカートリッジは、交換針の寸法が同じで、違う針を付けて鳴らすことができました(たとえばXLMの本体にZLMの針)

dynavector Dynavector (76/12)

長岡鉄男さんの著書にも独特な形状と紹介してあったダイナベクターのアーム群。
なるほど、これならどこのメーカーかは一目でわかる。

AT-15Ea/G Audio-technica AT-15Ea/G \25,000(76/12)

オーディオテクニカ独自のVM型カートリッジ。

Lm-70W MICRO Lm-70W \32,000(76/12)

マイクロのMM型カートリッジ。

SD-909 SUPEX SD-909(76/12)

SUPEXのMC型カートリッジ。

単純にして明快
スペックス独自の一点支持方式。
スペックスの構造は簡単です。
レコードのエネルギーはダイヤチップから二重のカンチレバーを経て、一直線にコアに伝えられ、電気エネルギーに変換されます。
78.5%PCパーマロイのコア。
テープレコーダのヘッドと同じ贅沢な素材の効果的な採用で歪を完全にカットしました。
しかも、コアの中心を極細の特殊鋼線ただ1本で保つ、独自の一点支持方式。
コアは完全に支点上に支持されているので、周波数によって支点が移動せず、低域・高域にかかわらず効率よく磁束を切って大きなエネルギーを発生させます。
この結果、トレースが高度に忠実化し、針先から見た機械的インピーダンスも減少するためハーモニクスをより明晰に表現します。
音を作り変えてしまう部分がどこにも無い、単純で明快なスペックス909。
しかし、このシンプルな構造は、手作りでしかできません。
二重構造のカンチレバー、共振を許さない極点状の支点、コアに巻き付けられたコイル、そしてアッセンブル。
ひとつひとつが手間とコストを無視した作りです。
いい音を作り出すために、一切の妥協を排してしまう。
その結果がスペックス909の音質表現であり、日産21台というささやかな生産性です。


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