8ミリビデオとそのライバルたちの部屋

最終更新日2002年11月16日


【概要】

8ミリビデオとは1985年に発売された世界127社の合意規格である。
規格名の由来はテープ幅が8mmであることである。
主としてビデオ一体型カメラに用いられた。
ライバルのVHS-C規格に市場シェアでは勝利したものの、一般的には普及しそうで普及しなかった。
2002年現在、日本国内ではソニー以外のメーカーは撤退している。
海外向けには日立などもDigital8規格を発売しているが、DV規格に負けてこのまま消え行く運命の規格である。

ソニーのベータムービーBMC-100が火をつけたビデオ一体型カメラ市場。
現在の視点から見るとベータムービーは異様に巨大なものであるが、1984年当時では画期的な製品であった。
それ以前はビデオとカメラとが別々の構成になっており価格は高価なうえに取り扱いが難しいため、一般家庭への普及は今ひとつであった。
ベータムービーに対抗して当時のVHS陣営が取った作戦は同じくビデオ一体型カメラ。
しかし搭載するビデオの規格はVHSフル規格とVHS-C規格とに別れた。
VHSの小型規格であるVHS-C規格があったにもかかわらずVHSフル規格カセットを使った会社も出てきたのはなぜか?
VHS-C規格が各社と互換性がある標準モードではわずか20分しか記録できない点に各社が難色を示したことであろう。
ベータ方式では2倍モードとはいえ事実上の標準モードであるベータ2で120分の記録ができたのだ。
8ミリビデオは元々ベータ・VHSの次世代機を目指したものであった。
しかし、規格そのものが一本化されるよりも家庭へのビデオの普及率が上回った。
8ミリビデオ規格がまとまる頃には既にVHS規格が事実上の家庭用標準規格となっていたのである。

8ミリビデオ規格はビデオ一体型カメラに使用されることを最初から考慮されており、標準モードで120分の記録が可能となっていた。
世界初の8ミリビデオの発売は意外にもソニーではなくコダックだった。
しかも製造元はVHS陣営の有力会社の松下電器。
この戦略はテスト販売の意味を兼ねて対米輸出用にコダックブランドで売ったというもの。
1986年年初、松下電器は日本国内でも8ミリビデオを発売すると発表した。
しかし、これはVHS盟主のビクターの説得により撤回される。
一説にはVHSライセンスを剥奪するとかいうおどしがかかったという。
けっきょく松下ブランドとしてはVHSフルカセットを用いた独自設計のビデオ一体型カメラを発売した。
ベータムービーですら巨大なのにさらに大きな肩乗せタイプの代物であったが、それなりに売れたようだ。
日立、シャープ、三菱などもVHSフルカセットを用いたビデオ一体型カメラを発売した。
ビクター一社だけがVHS-C規格にこだわり、GR-C1というビデオ一体型カメラを発売した。
GR-C1は他のベータやVHSカセットを使ったカメラより小さかったが、20分しか記録できない点が敬遠されて爆発的ヒットとはならなかった。
一方で8ミリビデオ規格のビデオ一体型カメラもそれほど本体は小さくはならなかった。
国内で最初に販売されたソニーCCD-V8は予想以上に巨大なもので、せっかくコンパクトなカセットを使っているのにまったくその良さが生かされていなかった。
この出だしのつまづきが8ミリビデオのその後の運命を決めたとも言える。
新規格の発売にも関わらず、消費者へのインパクトが極めて少なかったのである。

ビクターは8ミリビデオつぶしとして画期的な製品GR-C7を販売する。
GR-C7は現代の視点から見ても画期的な製品である。
とにかく小さい。
見た目のインパクトが充分。
8ミリビデオも最初からこれくらいの大きさ(小ささか?)で発売してくれていればもっと注目を浴びたことであろう。
VHS-C規格最大の弱点である録画時間は3倍モードを採用することで60分の記録が可能となった。
これなら通常の撮影には十分な記録時間である。
かくて松下をはじめとしてVHS各社はいっせいにビクターGR-C7をOEM販売することに方針を転換する。
これでビクターとしてはまんまと8ミリビデオのファミリー作りを妨害することに成功した。
8ミリビデオ戦略を進めるソニーも手をこまねいていたのではない。
既に崩壊気味のベータグループに加えてカメラメーカーを抱き込むことでグループを形成しようとした。
三洋、ゼネラルは8ミリビデオを出してくれたが、東芝、NECはVHS規格に走っていった。
おかげで8ミリビデオ陣営は弱者連合ともいえるくらいのグループとなってしまった。

その後、ビデオ一体型カメラの性能競争はソニー対ビクター&松下という図式ですさまじい争いを展開した。
小型・軽量化と画質戦争。
音質に関してはモノラルながらもAFM音声を採用している8ミリビデオの方が上回っていたが、VHS-C陣営は多ヘッド採用による高画質かとHi-Fi音声の採用で互角の展開だった。
ソニーは1987年にいちはやく本体重量1kgを切るCCD-V88を登場させた。
持ってみるとものすごく軽くてびっくりするのだが、本体の大きさは従来製品とあまり変わらないのでインパクトはなかった。
家庭用に普及したVHSデッキとの再生互換を持つVHS-Cが徐々に市場シェアを広めつつあった。
ここで一発逆転ホームランとなったのが1988年にソニーが発売したCCD-TR55。
それまでも画期的に小さいカメラはあったが録画専用モデルだったのであまり印象が残るような代物ではなかった。
ところがTR55は画期的に小さくなったのに再生機能も持っていたので市場に与えるインパクトはまさしくビッグバンと呼べるものであった。
浅野温子さんのテレビコマーシャル「パスポート(88年当時)サイズ」のわかりやすさとあいまって大ヒット。
市場における8ミリビデオとVHS-Cとのシェアを逆転した。
当初はモノラルだった標準音声(AFM)もステレオ音声をオプション規格として追加し、その後はステレオ音声が標準となった。
一方、デジタルでアフレコできるというふれこみで販売していたPCM音声はソニーですら見向きもしない規格になってしまった。
その後も松下のがんばりなどでVHS-Cは一定のシェアを保っていたが、とどめをさしたのはシャープの液晶ビューカムであった。
VHS-C規格を販売していたシャープが8ミリに鞍替えし、得意の液晶表示を搭載した独自スタイルのカメラであった。
これで完全に8ミリ方式がビデオ一体型カメラでは主流になったのだが、喜びもつかの間、DV規格が登場してビクターも松下もあっさりと鞍替え。
ビデオ一体型カメラ市場は全面的に仕切り直しとなった。

8ミリビデオの特長はテープそのものの小ささ。
カセットのサイズは95×62.5×15mmだからVHSと比べると見た目は1/3以下。
これで2時間の録画が可能である。
音声が標準がAFMモノラル音声。
最初からハイファイ音声が標準で高音質であった。
さらにお楽しみで8ビットのPCM音声がオプションで用意されていた。
その後もハイバンド化やデジタルエイト化などで懸命に生き延びようとしている。

85年頃 ソニーCCD-V8発売
88年頃 ソニーCCD-TR55発売 パスポートサイズが受けて大ヒット
88年3月 主要10社でハイバンド化(ハイエイト)規格とAFM音声のステレオ規格成立
91年2月 16ビットPCMオーディオオプション規格成立 しかし製品は出てこなかった
98年? ソニー8ミリXR技術成立
99年3月 デジタルエイト製品発売

黎明期のビデオ撮影形体

FANTAS VHS-C MITSUBISHI FANTAS(83/11)

VHS-Cカセットを用いるデッキがHV-11G(\148,000)。
カラービデオカメラがCIT-710(\219,000)。
撮影には両方が必要な上、バッテリーなども含めると40万円もかかっていた。
この時代に自前でビデオ撮影する人はかなり珍しかった。
せっかくカセットをコンパクトにしたVHS-C規格であったがこんなセパレートサイズでは「カセットが小さい」というメリットをまったく生かせないので売れ行きは悲惨な成績だったらしい。
三菱自身もVHSフルカセットを用いてカメラ端子装備のフリーファンタスHV-33Tに力が入っていたため、カタログでも扱いは小さい。

HV-11Gの重量は2.6kg(バッテリー含む)。
サイズは幅18.3×高さ7.9×奥行21.6cmである。
カメラCIT-710のサイズは幅19.3×高さ23.0×奥行45.3cm、重量2.6kgというもの。
1/2形サチコンを撮像管に採用していた。
内蔵のマイコンで日付、時刻、ストップウォッチ、機能チェック、警告表示、そしてタイトル表示ができた。
マクロ機構付き6倍パワーズームレンズ装備。
さすがに機能の方は豊富だった。

HITACHI VHS一体型 HITACHI MASTACS MOVIE

VM-500 \298,000(86/6)
ソニーのベータムービーに遅れて発売されたVHSフルカセット一体型カメラ。
本当は松下のNV-M1の方が先なのだが、日立の方が珍しい機能を持っているので載せることにする。
では、このカメラのどこが珍しいのか?
撮像素子に日立独自のMOSイメージセンサー固体撮像素子を採用しているのである。
画素数は約30万個。
カメラ部の水平解像度は350本であった。
VHSデッキ部にはHQ方式も採用。
幅16.4×高さ19.2×奥行35.9cm。
重量は2.4kgであった。
当時、日立は据置型を「飛び出すビデオ」と称してデッキ部分だけを外してカメラ撮影に使えるようにしていた。
けっこう日立もがんばっていたんだが、MOSは主流にはなれなかった。

VICTOR VHS-C一体型 VICTOR VideoMovie

GR-C1 \298,000(85/10)
映画「Back to the Future」にも登場したVHS-C一体型カメラ。
やっとカメラらしくなった。
ちなみに「ムービー」はビクターの登録商標らしい。
本体重量1.9kg。外形は幅17.6×高さ13.6×奥行34.0cm。
この時点では標準モードしか採用されておらず、テープも20分テープしかなかったので最長記録時間は20分であった。
もちろんハイファイ音声も採用していない。
それでも、このサイズになってからやっとビデオ一体型カメラに注目が集まるようになった。
実際にヒット商品になるのはこの次のGR-C7からである。

GR-C7 VHS-C一体型 VICTOR VideoMovie

GR-C7 \248,000(86/02)
シェアを広げつつあった8ミリビデオカメラ陣営に放ったビクターの強力作品。
今までのビデオカメラとは一線を画すデザインの良さ。
これこそが一体型のメリットだ。
VHS-C方式最大の弱点であった録画時間の短さも3倍モード採用で最大1時間に延ばした。
けっこうまだ使っているビデオマニアの人も多いという。


8ミリビデオ

CCD-V8 8mmVIDEO SONY CCD-V8(85/10)

コンパクトカセットテープとほぼ同じ大きさのテープに2時間記録できるという8ミリビデオ。
しかし、テープ自身は小さくてもご覧の通り本体は異様に大きかった。
これじゃ売れるわけないよね。
やっと小さくなるのはCCD-V30あたりからである。

EV-S700 8mm PCM deck

SONY EV-S700 \249,800(85/10)
映像トラックを5分割、これにもともと用意されているPCM音声(オプション規格)のトラックと合わせて6トラックのPCMデジタル録音が楽しめた。
120分テープをLPモードで使用すれば24時間の録音が可能であった。
それ以外にはあまり見るべきものはない8ミリビデオデッキ国内第1号モデルである。
カタログによると「世界初のデジタルオーディオビデオ(DAV)」としている。
1本のテープにテレビ録画と音楽ソースなどが同時に録音できるサイマルキャスト録音機構を装備。
この時点ではAFM音声はモノラルであった。
オーディオの入出力端子に金メッキを使用するなど、オーディオライクなデッキであった。

EV-A300 8mm deck

SONY EV-A300 \145,000(85/10)
廉価版のデッキ。
「ベータハイファイでご好評のAFM方式を採用。すばらしい高音質ハイファイサウンドが楽しめる。」と、カタログに書いてある。
VHSの標準音声とAFM音声とでは誰にでもあきらかにわかるほどの音質の差があった。
「別売PCMステレオプロセッサーをプラスするとデジタルサウンドで美しい映像を体験できる。」とも書いてある。
このPCMプロセッサーはPCM-EV10(50,000)で8ミリビデオのPCMデジタルオーディオのプロセッサーである。
映像トラックをフルに使って記録するPCMプロセッサーではない。
ベータハイファイプロセッサより200円高いのは差別化したのであろうか?

奥に写っている弁当箱風のカメラは録画専用のCCD-M8(\198,000)。
録画専用モデルでは所詮売れるはずがない。
確かに本体は小さかったがそれだけではだめな典型的な例。
以後、二度と「録画専用」などという手抜きのふざけた製品は出てこなかった。

E-800BS TOSHIBA 8mm deck BS ARENA Hi8

TOSHIBA E-800BS \195,000(91/12)
ついにソニー以外のメーカーが8ミリデッキを発売した。
東芝の8ミリビデオデッキ。
私も所有している。
BSチューナー内蔵、マルチトラックPCM録再機能など、8ミリの本家とも言えるソニーよりも数段機能満載であった。
しかし、録音レベルが手動不可だったり、インデックス機能が無いなど、ちょっと不満はある。
東芝はこのあとE-700BSを発売するがこの2機種だけでデッキから撤退。
カメラ部には参入しなかった。

Hi8+VHS

GENERAL TECNICA 8

FUJITSU-GENERAL VGM-W80 \178,000(86/12)
富士通ゼネラルの8ミリビデオカメラ。
社名が変わったばかりの頃の製品である。
だからブランド名は「GENERAL」。
既にVHSデッキは松下から、レーザーディスクプレーヤーはパイオニアからとAV商品はOEMでまかなっていた富士通ゼネラル。
これもどっかのメーカーからのOEMと思われる。
カメラと再生部が着脱自在になっていた。
今でこそAV製品はプラズマディスプレイしかなくなってしまった富士通ゼネラルであるが、かつて力道山が活躍していた時代はプロレスのスポンサーを努めるなど大手であった。
溝ありビデオディスクやアナログCSチューナーなど、あまり人目に付かない部分で傑作を残しているゼネラル。
夢よ、もう一度は外野の勝手な意見か。

TAPE 8mm VIDEO TAPE

FUJITSU-GENERAL P6-120 \2,100(86/12)
本当に市場に出回ったのか疑問の富士通ゼネラルブランドの8ミリビデオテープ。
カタログ内の大きさの比較対象がTDKのコンパクトカセットテープADなのでおそらくTDKからのOEMなのであろう。


各社のビデオカメラ試作品の比較

<情報ご提供は新潟県の戸田春男様です>

ソニー
カメラ=CCD単板
発表時期=1980/7/1
重さ(kg)=2
寸法(mm)=191x171x60
記録時間=20分
カセット寸法(mm)=56x35x13
使用テープ=メタル8mm幅
消費電力=DC7W
バッテリー=酸化銀亜鉛
ビデオヘッド数=推定センダスト録画フェライト再生
シリンダ径(相対速度)(mm,m/s)=推定37.5,3.5
テープ速度(mm/s)=推定20.2
ビデオトラックピッチ(μm)=推定36.8
使用レンズ(xズーム)=F1.8 x4

日立
カメラ=MOS単板
発表時期=1980/9/16
重さ(kg)=2.6
寸法(mm)=237x192x76
記録時間=2時間
カセット寸法(mm)=112x67x13.6
使用テープ=改良酸化物6.25mm幅
消費電力=DC7W
バッテリー=NiCd
ビデオヘッド数=2 推定フェライト
シリンダ径(相対速度)(mm,m/s)=44,4.1
テープ速度(mm/s)=推定5.77
ビデオトラックピッチ(μm)=推定19.6
使用レンズ(xズーム)=F1.8 x4

松下
カメラ=1/2インチ撮像管
発表時期=1981/2/10
重さ(kg)=2.1
寸法(mm)=約29x118x67
記録時間=2時間
カセット寸法(mm)=94x63x14
使用テープ=蒸着7mm幅
消費電力=DC5W
バッテリー=NiCd
ビデオヘッド数=2 フェライト
シリンダ径(相対速度)(mm,m/s)=40,3.7
テープ速度(mm/s)=14.3
ビデオトラックピッチ(μm)=15.9
使用レンズ(xズーム)=F1.4 x3

宇田礼三「ホームビデオ入門基本18章」電波新聞社1981


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