Audio High-density Discの部屋
最終更新日1999年1月13日
【概要】
ここで紹介する「AHD(Audio Highdensity Disc)」は日本ビクターが開発したDigital Audio Discの規格の一つである。
AHDは専用プレーヤーではなくVHD(Video Highdensity Disc)方式のビデオディスクプレーヤーで再生が可能なデジタルオーディオ規格であった。
現在ではDAD=CD(Compact Disc)という図式が成り立つが、アナログレコードの次世代覇権となるDigital Audio Discのリーダーシップを狙って、大手メーカーが例によってもめていた時期がある。
DADの規格統一を図ったDAD懇談会では「CD方式」「AHD方式」「MD方式」の3つの規格が承認された。
「CD方式」はフィリップスとソニーが共同で開発した規格。
「AHD方式」はビクターが開発した規格で、最後までCD方式に対抗して反対していたという。
「MD方式」は西ドイツ・テレフンケン社開発の規格である。
なお、この「MD」とはMini Discの略だがテレフンケン社開発のTED方式ビデオディスクをオーディオ専用にしたもので、今をときめくソニー開発の光磁気ディスクとはまったく異なる規格である。
溝にそって針を運ぶものなので「溝あり静電容量方式」と呼ばれている。
(参考)MD方式ではディスクの直径は13.5cm(ミニディスク)および7.5cm(こちらはマイクロディスクと呼んでいた)、片面最大1時間のステレオ演奏が可能 接触式再生方式だった。
DAD懇談会ではソニー/フィリップス連合が推すCompact Disc方式を最初に発売するように落ち着いた。
ビクターも懇談会の決定に従いCDプレーヤーを発売したのだが、AHDも決してあきらめられたわけではなかった。
何といっても自社開発のフォーマットである。
そう簡単にあきらめるわけにはいかなかったのである。
AHDの特長は動画が楽しめるビデオディスク規格であるVHDとの互換性を持つ点である。
ビクターは自社開発のVHDがビデオテープのVHS規格同様、世界標準になることを夢見ていたのである。
もしVHDがビデオディスクの主流となっていたらAHDがDigital Audio Discの主流になっていたかもしれない。
そうなっていればビクターにはVHSと合わせて莫大なロイヤリティ(使用料金)が入っていたことであろう。
ビクターの大きな期待を担ったVHDであったが結果はLD方式に敗北した。
VHD方式は13対1という絶対的有利なファミリー作りに成功しながらもレーザーディスク方式に敗北した。
答えは簡単、LD方式に対して不利な点ばかりが目立ったからである。
非接触式でディスク寿命がほぼ無いレーザーディスクに対して、VHD/AHDはセンサーが直接ディスクをなぞる方式なので、センサーもディスクもかければかけるほど劣化していき寿命があった。
ただし、VHD/AHDにはアナログレコードのように針を案内するための溝はなかった。
このためVHD/AHDは「溝なし静電容量方式」とも呼ばれている。
ビクターは特別なAHD専用プレーヤーではなく、VHDプレーヤーに外部AHDアダプタを接続してそのまま用いることができる点を強調。
ビデオディスクプレーヤーとデジタルオーディオディスクプレーヤーを一体化する方針はCD方式以外の2方式では開発当初から持っていたのである。
ビクター製アンプにはCD発売後(前述の通りビクターも他社同様に1982年秋にCDプレーヤーは発売していた)も長らく「CD端子」と表記せず「DAD端子」と表示していた。
ビクターなりの意地だったのであろう。
AHDはVHDのディスクと同じく片面60分の容量を持っていた。
ただし、VHDがFM変調のアナログ音声だったのに対して、AHDでは16ビットのデジタルオーディオとなっている。
これは同じ直径26cmという巨大なディスクを使っているがVHDが映像も記録する必要があったのに対してAHDでは音声専用で使ったがゆえに成し得たスペックである。
CDは片面使用だったが、AHDでは両面を使うことができた。
このため、最大記録時間は2時間となっている。
信号伝走路としては4チャンネルを持っている。
用途としては
4ch独立音声
異種ステレオ音声(2ch×2)
Digital静止画像+3ch(中央音声1ch)
2種Digital静止画像+2ch音声
というものであった。
AHD再生時の回転数は900rpm。
サンプリング周波数は47.25kHzを予定していたが、その後業務用デジタルオーディオの主流周波数である44.1kHzになったらしい。伝送レートは5.733Mbps。(コロナ社刊・ビデオディスクとDAD入門による)
「DAT読本・オーム社刊」によるとAHDは直径30cmの導電性ディスクで、標本化周波数47.25kHz、量子化数16ビット、2チャンネル記録で最大記録時間2時間、3〜4チャンネル記録で最大記録時間1時間とのことである。
ディスク直径のスペックがおかしいのは開発途上での発表スペックのせいらしい。
むき出しで汚れや傷が付き易いCDに比べてAHDはケースに入っているため、ディスク保護の観点では優れていた。
もっとも、VHD/AHDは接触方式のメディアだけに傷や汚れに対して極端に弱いがために保護ケースに入っていたものと言える。
これだけではAHDは単に大きなCDという感じだが、もちろんAHDにはCDにはない独自の魅力があった。
それは1600万色の静止画像を入れられることであった。
この静止画像もデジタル方式(詳しい内容は不明だが、すると今のJPEGやMPEGの先祖だろうか?)なので、かなりきめこまかく、NTSC方式のテレビモニターではおそらく最高水準だったのではなかろうか。
AHDの静止画記録フォーマットは世界共通だったが、再生デコーダーはさすがに共通ではなかった。
このようなきれいな映像と迫力のサウンドの組み合わせがAHDの売り文句だった。
従って、最初はきれいな映像というよりは、迫力のある映像が消費者に受けるという予想のもとに、AHDソフト第一号は「NEW YORK CITY」の街並みを紹介したものがメイン商品だった。
ちなみにAHDの発売年度であるが、さすがに私も忘れてしまった。
VHDの発売日が83年4月だが、手元の85年3月のビクターのカタログにはまだAHDの登場はない。
87年5月のカタログ(後述)にはAHDはすでに登場しているが、3Dやサラウンドに押されて中盤くらいのところに表示されている。
それにAHDは筆者が学生であった86年には確実に発売されたと記憶しているので、おそらく85年の秋に発売されたのではなかろうか。
そして86年の秋に立体VHDが登場したのではないかと推測できるが、詳しい情報をお持ちの方はぜひ松岡まで教えていただきたい。
【AHDについての新情報】 情報御提供はBBSで書き込まれたリアルが好き様です。
皆さん初めまして。
AHDについてお話ししたいと思います。
まず「オーム社刊:DAT読本」で載っているという直径30cmというのはおそらく開発初期の事を書いているのではないかと思います。
この時は両面同時プレス後、導電性にするためにわざわざアルミ蒸着を行っていました。
その為にトラックピッチは1.4umになりどうしてもLDと同じ大きさになってしまった様です。
またオーディオスペック的にはこの感じでよいと思いますが、記録時間は場合にもよりますが2chで片面で最大2時間だったと思います。
どうせならD/Aコンバーターを2つ並列に繋げて標本周波数を98kHzにしてやった方が賢かったと個人としては思いますし、そうすればクラシックファンやジャズファンやハイエンド層にも指示されてもうちょっと息の長い製品になったと思いますが。
またさらに標本化周波数が47.25kHzとなっていますがほぼ48kHzと見てよいと思います。
なぜこの様にしたかというとパッケージメディアの観点からビデオを用いたPCMへの録音を阻止するためだったそうです。
その頃のPCMプロセッサーの標本周波数は40kHz位と整数値を取っていたので整数値を取らなければ阻止できると考えたのでしょう。
またAHDソフトを再生する上での再生回転数はPAL/SECAM, NTSC共900rpmに統一されておりまた、記録コード(?)はNRZSであり転送レートは大体6Mbps位です。
さらにCAV方式を採用しているので読みとりはMCAVを用いています。
次にデジタル映像についてですが8bit,コンポーネント方式でフィールド記録,水平解像度は約320本,S/N比は当時としては最大で現在のLDと同じ位の52dBでしばしばビジュアル系の雑誌で機器の画像評価に用いられていました。(つい最近まで、今もかな?)
またPAL/SECAMで映像が対応するために一旦NTSCにしてから変換するという事です。(まあ考えてみればPAL/SECAMのプレーヤー,ソフトが出なかったんだから全世界対応は意味もない物でしたね。)
最後にVHD-QX方式の事ですがLDと負けていたということもあり水平解像度約400本してアナログ音声,もしくは水平解像度はそのままにして16bit,44.1kHzのでデジタル音声を入れる物としていました。
このソフトは従来のプレーヤーと互換がありディスクの方はカーボンを従来より多く入れてピットをやや小さめにした物であり、QXプレーヤーの方でQXディスクかどうか確認をするということです。
このディスクの周波数スペクトルは約3MHzの映像信号のに2MHzのQX信号がアナログ音声と重なる形で入るということです。
(たぶんアナログ音声と共に周波数多重という形で)このディスクとプレーヤーはカラオケのステレオ音声多重の技術に用いられていると思います。(つまりボーカルとメロディーを別々にステレオで記録)
また別として試作の物でHDの映像が入っていたAHDディスクがありました。(これは筑波科学博にも出展したらしい。)
1フィールドか1フレームを出すのに10秒はかかっていたらし。
またMUSEーVHDも開発をしていたらしく(勿論ベースバンドの物も)片面40分両面で80分も再生できたということであった。(なおベースバンドの詳細は不明)
これらは以下の本を参考にしました。
ラジオ技術:79年から現在まで
ラジオの制作:85年から現在まで
初歩のラジオ:上に同じ
筆者注:AHDから離れてしまうが、VHDでは全世界対応をうたっていた。
テレビ方式の違いを乗り越えてどこでも再生できるという触れ込みであったが、よく注釈を見てみると、
PAL/SECAM方式のディスクをNTSC方式のディスプレイに映し出すと画面が上下に20%ほど伸びるとのことであった。
どこが世界対応やねん、と、思っていた。
なおVHDについての詳細はアナログビデオディスクプレーヤーの部屋にて。
【87年5月のビクターのVHDカタログより】
ビデオディスクで、音と映像のデジタル体験。
目をみはる鮮明画像、そしてクリアなサウンド。夢のデジタル物語だ。AHDデジタルディスク。
映像S/N60dB、色彩表現能力1600万通り以上の鮮やかなデジタル静止画が、両面最大3,000枚と、最大2時間もの高音質なデジタル音声とともに楽しめるAHDデジタルディスク。
AHDはVHDと同じ再生原理だから、外部制御AHD端子付きのVHDプレーヤーにAHDデジタルプロセッサ(AD-7000 \198,000-別売)を接続するだけ。
写真集をみるように、美術館にいるようにAHDは、ビジュアルをしゃれたインテリアにします。
<システム例>
ビデオディスクプレーヤー HD-9300 \79,800
AHDデジタルプロセッサ AD-7000 \198,000
28型カラーモニター AV-M280 \270,000
AHDビデオディスクソフト(たぶん、ここにあるのがすべてだと思う)
平家物語 AHC-3 \7,800
ビバルディ「四季」 AHM-1 \6,800
RAKUEN/MAHARAJA AHM-9 \6,800
RAKUEN/Seychelles AHM-2 \6,800
紐育NEW YORK CITY AHM-3 \6,800
カリフォルニア・ガールズ AHM-4 \6,800
RAKUEN/モルディブ AHM-6 \6,800
長い夜白い朝 佐藤明 A scandinavian essay AHM-11 \6,800
スイス・アルプス AHM-7 \5,800
カリビアン・ガールズ AHM-8 \6,800
フラットバッカー AHM-10 \5,800
ウィンナ・ワルツ〜ヨハン・シュトラウスの夕べ AHM-12 \6,800
白川義員写真集/アルプス・ヒマラヤ AHC-1 \7,800
横尾忠則/千年王国 AHC-2 \7,800
アフリカ最深部/森の民ピグミーとの出会い AHC-4 \7,800
パリあちこち AHC-5 \7,800
小倉百人一首 AHC-6 \7,800
大橋力メッセージ 天国に最も近い島−バリ島への招待− AHC-7 \7,800
【ついで】
AHDの母体となったVHDはFM変調のアナログ音声だということであったが、PCM音声も晩年に規格化されている。
名称は「VHD-QX」だったと記憶しているが、定かではない。
ただし、このQXディスク、対応したVHDプレーヤーは発売されたが、とうとうソフトの方は未発売のままに終わった。
対応プレーヤー登場時点でとっくにLDとの勝負はついていたのである。
前のページに戻る
誤記、新情報などありましたら
Web Master
まで
現在もご使用中の方、感想をお知らせください。