アナログビデオディスクプレーヤーの部屋

最終更新日1999年6月20日

参考文献・コロナ社刊 ビデオディスクとDAD入門
     啓学出版刊 VTR技術入門


【概要】

 DVDが登場したことで一般に普及することなく消え去ろうとしているアナログビデオディスクプレーヤー。
 ここでは黎明期のプレーヤーを取り上げる。

 普通は再生専用メディアとしては、ディスクメディアの方がテープメディアよりも先行するのだが、ビデオに関してはテープメディアの方が技術が先行した。
 このため、社運を賭けて開発したはずのビデオディスクは軒並み頭打ちとなり、もっとも成功したはずのパイオニアですらあまり甘い汁は吸えなかったようだ。
 「絵の出るレコード」として開発が進んだビデオディスクは、1970年に西ドイツのTED社が初めて開発に成功した。
 このシステムはオーディオレコード技術を極限まで進めた集大成ともいえるものである。
 定溝密度でFM垂直変調して記録していた。
 音声はステレオ対応だったようだが、スペックは40-12,500Hzというレベルのものであった。
 ディスクは直径が210mmと、意外にコンパクト。
 ただし再生時間は片面でわずか10分しかなかった。
 日本でも1977年にゼネラル社(現・富士通ゼネラル)がTED方式のビデオディスクを首都圏で学習器材として試験販売されたが、一般に普及することなく消えた。

 あの松下電器も妙な規格を開発している。
 それが「VISC」と呼ばれる規格である。
種類ディスク直径(cm)片面再生時間(分)トラックピッチ(μm)回転方式用途
VISC-130304.6CAV(450rpm)VIDEO
VISC-230602.3CAV(450rpm)VIDEO
VISC-AD30304.6CAV(450rpm)PCM AUDIO
VISC-O-PAC22.5602.3CLV(3.9m/s)VIDEO
 ディスクパックをプレーヤーの設置台に乗せ、押しボタン操作でディスクパックのベースに対するプロテクトカバーが外れてピックアップがディスクと設置台との間に進入して再生が始まるというもの。
 文章にすると訳が分からないですね。詳しくは上記の本を参照してください。(^_^;)

 その後、世界の主要メーカーが開発競争にしのぎを削り、80年代半ばには三方式に絞られ、市販された。
 その方式とは、CED方式、レーザー方式、VHD方式である。


【TED方式】

 TED方式は機械的凹凸方式(mechanical pick-up system)と呼ばれている。
 西ドイツのテレフンケン社とテルデック社およびイギリスのデッカ社が設立した合弁会社(TED Bildplatten Aktiengesellschaft AEG-TELEFUNKEN.TELDEC)が開発したビデオディスクシステムである。
 厚さ0.12mm、直径21cmのプラスチック製のディスクを用いる。
 アナログオーディオレコードと同様に螺旋状に機械的な凹凸の溝を設けている。
 円盤の回転数はNTSC方式で1800回転/分。
 PAL方式の場合は1500回転/分であった。
 映像信号と音声信号は使用する周波数の帯域を電気的に分けて記録している。
 映像信号の周波数偏移は2.8〜4.2MHz。
 音声は2チャンネル記録(ステレオ)で、ch1が1000±50kHz、ch2が800±50kHzである。
 ディスクがラッカ盤の原盤を作ってアナログオーディオレコードと同様に高速度プレスで作成できる。
 したがって安価にソフト制作ができると期待されていた。
 再生はさすがにアナログレコード風には不可能で、毎分1800回転という高速回転なのでターンテーブルは使用できなかった。
 代わりにディスクの中心部を主軸に固定保持する形で回転させていた。
 ようするにコンパクトディスクのように中心保持で回転させていた。
 ピックアップ装置で実際にディスクに接触する部分(スタイラスと呼ぶ)にはダイヤモンド針が使用されていた。
 ディスクの溝にスタイラスが接触すると溝に刻まれた凹凸の変化を圧力の変化に変え、圧電変換素子に伝達して記録信号を再生する。
 スタイラス、圧電素子で構成されるピックアップはディスク上の接線方向に垂直に移動するものであった。
 リニアスケーティングですね。
 映像信号の再生はリピート再生が可能だった。
 ピックアップの移動を停止させることにより行うもので、同じ溝を何度も再生するものなのであまり気持のいいものではなかった。
 リピート再生を行う場合は映像のみで音声の再生は不可能だった。
 元の溝に戻るときにも再生画像の同期が乱れないという優れものであった。
 これは各水平走査線ごとにFM搬送波の位置が正確に揃えられた形態でディスク上に記録されていたからである。
 TEDはディスク製作が容易にできること、ディスク盤とプレーヤーが安価にできること、ディスクの取り扱いも一般のアナログオーディオレコードと同様に扱えること、途中からの再生やリピートが可能であったなど長所もあった。
 最大の弱点は記録時間で、わずか10分間しか再生できなかった。
 そのため、ディスクを12枚重ねて順次外していくチェンジャー方式のプレーヤーを開発、最大で120分の再生を可能にしたモデルもあったらしい。
 実際に発売されたのかは不明であるが。
 日本ではゼネラルが1977年に首都圏で試験販売した。
 もちろん商業的には大失敗だった。

【CED方式】

 SV(Selecta Vision=RCAの商標)・静電容量方式とも呼ばれている。
 アメリカのRCA社が開発したシステム(Capsitance Electron Disc System)。
 従来のレコードと同じく映像と音声を記録した案内溝を針でトレースして再生する。
 導電性のディスクに針の電極を接触させ、ディスクの凹凸によって生ずる静電容量の変化を検出して電気信号に変えて再生する方式である。

 開発思想は、プレーヤー、ディスクともに安価で大量生産できる家庭用娯楽商品という位置づけであった。
 そのため、ノーマル速度での再生のみ可能で、特殊再生機能やランダムアクセス機能は持っていない。
 ただ、画像を見ながらの早送り、巻き戻しだけはできたらしい。
 1981年3月にアメリカで発売したが、販売成績は悲惨なものだったらしい。
 結果的にこの方式にこだわったRCA社は自ら身を滅ぼしてしまった。

 なお、日本ではCED方式ビデオディスクは発売されなかった。
 ただし東芝、三菱、三洋、日立がアメリカで販売したらしい。

 キズ、ホコリ、指紋などに極端に弱いため、ディスクは保護ケースに収められている。
 摩耗対策としてディスク表面に潤滑油がスプレーされていたという。
 非常に涙ぐましい努力だった。
 音声もモノラルが標準仕様で、ステレオタイプが登場するのは1982年になってからのことである。

 もともとは放送用に開発されたものであった。
 直径30cmの塩化ビニール製ディスク(アナログオーディオレコードと同じもの)に記録する。
 ディスク表面に金属および誘電体がコーディングされており、螺旋状の溝に映像と音声とがスロットとして刻み込まれる。
 回転数は毎分450回転。
 最高記録周波数は6.3MHzでその最小記録波長は約0.6マイクロメートルである。
 信号はシンクチップが4.3MHz、ホワイトピークが6.3MHzに設定されており、FM信号として記録されています。
 音声信号は2チャンネルでch1が0.716MHz、ch2が0.905MHzの副搬送波をそれぞれ周波数変調しています。
 再生する場合は容量型のピックアップ(金属電極とサファイアのスタイラスとを張り合わせて一体化したもの)により、金属電極の先端部とディスク面上のコーティングとの間の静電容量の変化を検出し、この検出信号を映像と音声の電気信号に変換して再生する。
 スタイラスがディスク上の記録パターンを通過するときにスタイラス先端部で容量の変化を検出するものであった。
 再生時間は片面で30分、両面で60分であった。
 ディスクとピックアップとの相対速度が他方式に比べて遅く、高解像度の画像再生は不可能であった。
 ディスク1回転に4フレーム分の信号を記録するため、静止画などのトリック再生はできなかった。

信号記録方式 色副搬送波埋め込み方式
映像信号の変調 FM 4.3MHz-6.3MHz
輝度信号帯域幅 3.0MHz
輝度信号SN比(CCIR) 46dB以上
色度信号帯域幅 0.5MHz
色度信号SN比 40dB以上
音声信号の変調 FM 搬送波:716kHz
音声信号SN比(NAB) 50dB以上
案内溝のピッチ 2.64マイクロメートル
案内溝の数 27,000本(片面)
コマ数 4コマ/回転

【VLP(Video Long Play)方式(レーザー光方式)】

 開発したのはオランダのフィリップス社とアメリカのMCA社。
 VLPという名称はフィリップスが開発した商品名である。
 だが、実用になるプレーヤーを発売し、育てたのは日本のパイオニア社である。

 ディスクに記録された信号を、レーザー光線によって光学的に読み取って再生する。
 レーザー光線をディスクの凹凸に当て、反射してくる光の強さの変化を受講素子で受けて電気信号に変えて再生するというもの。

 ディスクにはCAVとCLVの二種類がある。
 ディスク直径はどちらも30cmで、後年にLDシングルなる20cm直径の規格も設定された。
 CAVは毎分1800回転の等速度で回転し、片面30分、両面で60分の再生が可能である。
 CLVはディスクの外周と内周とで回転速度が異なる。
 毎分、内周で1800回転、外周で600回転と変化させながら再生する。
 片面60分、両面で120分の再生が可能である。
 CAVでは1トラックに1フレームが記録されているので、多彩なトリックプレーが可能である。
 一方、CLVではディスクの内周と外周とで記録されているフレーム数が異なるため、当初はトリックプレーができなかった。
 しかし、デジタルメモリーの普及でトリックプレーが可能になった。
 もちろん、ランダムアクセスも可能である。

 他の二方式と違い、ディスクがむき出しのままである点も特徴である。
 アメリカでは1980年6月から、日本ではパイオニアが1981年10月から発売開始した。
 なお「レーザーディスク」というのはもともとはパイオニアの商標名だったが、あまりにも知名度が一般に広まりすぎてとうとうパイオニアも無償で商標を開放したという。
 一般大衆に「レーザーディスク」という言葉が認知されたのは今は演歌歌手になっている吉幾三氏の「俺あ東京さ行ぐだ」の中の歌詞からだと思う。
 おかげで吉氏はパイオニアからレーザーディスクセットをもらったという。
 うらやましい話だ。(^_^;)
レーザーディスクの部屋


【VHD方式】

 日本ビクターが開発した方式(Video High-density Disc System)。
 CED方式と同様、針でトレースする方式だが、ディスクに案内溝が無い点が特徴である。
 ディスク直径は30cmで、片面60分の再生が可能であった。

 映像と音声の信号はディスクの外周から内周にかけて渦巻状に記録される。
 トラックの幅は1.35マイクロメートルで、トラックは隣接して配置されている。
 ただ、トラック境界には補助ビット列があり、針が正確にトラックをトレースするためのトラッキング信号が記録されている。
 信号の再生はビットの有無により、ディスクと針先の電極部に生じる静電容量の変化を読み取って行われる。

 レーザーディスク方式との最大の違いは、ディスクがケースに収められている点である。
 ケースごとプレーヤーに差し込むと、ディスクのみプレーヤーに残ってターンテーブルにセットされる。
 VHD方式は案内溝が無く、定速回転のため、レーザー方式のCAV同様、多彩なトリックプレーやランダムアクセスが可能である。
 ただし、1トラックに2フレームが記録されているため、動きの早い映像を静止させた場合は完全な静止画にならないという間抜けな点があった。

 水平解像度はノーマルVHSと同じ240本程度。
 音声もFM変調なのでハイファイビデオと何らスペックは変わらないというものだった。

 日本では1982年4月に販売が予定されていたが、結局1年間先に延びてしまった。
 この出だしのつまずきが最後までVHD方式のイメージの悪さを引きずってしまったものだと思う。
 ファミリー作りにはビクターも熱心で、日本ビクター、松下電器、三洋、シャープ、三菱、東芝、NEC、ゼネラル、ヤマハ、ケンウッド、赤井、サンスイ、オーディオテクニカと13社を抱き込むことに成功した。
 発売当初はけっこう反響はあったようだが、不況の真っ最中でもあり、あまり一般家庭に浸透しないまま時代が流れていった。
 パイオニアの孤軍奮闘に様子眺めの模様だったソニー、日立らがLD方式に加担するに連れてVHD陣営は旗色が悪くなり、とうとうヤマハがVHDプレーヤーを未発売のままいきなりLD方式プレーヤーを発売するに当たってVHDファミリーは崩壊した。
 この間、ソニー系のアイワがひっそりVHD陣営に加わり、シャープからのOEMでプレーヤーを発売していたことはあまり知られていない。
 アイワってベータ方式VTRとVHD方式VDと、ビデオ系規格で常に旗色の悪い方に参画したなかなかいい奴なのかもしれない。(^_^;)

 晩年のVHDではQX方式と称して水平解像度を400本にしたHD-V1(\119,800)を発売したが、対応ソフトが一枚も発売されずに消えた。


Video High Density discの部屋


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