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デジタルコンパクトカセットの部屋

最終更新日2001年3月17日


【概要】

 Digital Compact Cassette(DCC)はアナログ方式のCompact Cassetteの置き換え用にオランダのフィリップス社と日本の松下電器産業社が共同で開発した規格である。
 しかし、開発元の松下のカタログからは1996年以来、ラインナップから消えてしまった。
 発売されていた期間は1991年から1996年までのわずか5年間。
 エルカセットと同じくらいの短命に終わった規格である。
 2000年12月現在、長らくdccテープを在庫していた東京・秋葉原にある石丸電気の店頭でも「dccテープは製造終了」と書いてあった。

写真は最後の松下dccデッキ:RS-DC8(\99,800)96-3カタログより
RS-DC8

 フィリップス系のマランツ社のカタログからも消えている。
 最後まで残ったのは日本ビクターであったが、それも1997年11月のカタログまで。
 1998年1月の同社オーディオカタログからは唐突にdccは消えている。

もはや堂々とオーディオ考古学に名前を連ねる規格となったのである。

 ビクターの97-11のハイファイコンポーネント総合カタログによると
デジタル・コンパクト・カセットデッキ ZD-V919 \158,000

ZD-V919

ポータブルDCCプレーヤー ZD-1 \59,800
ZD-1
 となっている。
 明らかに松下、もしくはフィリップスのOEM品であった。

 ちなみに欧州ではdccは98年中盤まではまだBASFもdccテープを販売していた。
 しかし、BASFの最新ページのproduct情報からはdccテープは抹殺された。

 ちなみにDCCデッキの一号機は
パナソニック RS−DC10 \135,000
フィリップス DCC−900 \115,000
 であった。

RS-DC10

写真はエレクトロニクスライフ1992年11月号表紙より。


DCC発売前のパンフレット

DCCのパンフレット


【DCCの開発コンセプト】

エレクトロニクスライフ1992年11月号より抜粋

 1963年にフィリップス社により開発されたアナログコンパクトカセットは、当初ディクテーションマシン(秘書などの口頭記録用)として使用されましたが、その後のハード機器、メディアとしてのテープの性能改良により音質がすばらしく改善され、今日のオーディオ文化に欠かせない大きな位置を占めるに至りました。
 また、これほどまでに発展普及した背景には、誰にでも扱えるというコンパクトカセットの簡便性などがあったことも忘れてはなりません。
 結果としてACCは爆発的な普及と需要を見ることとなり、カセットデッキ、ミニコンポーネント、CDラジカセ、ヘッドホンステレオなどのコンパクトカセット関連機器は、全世界で年間1.9億台が販売されるに加え、カセットテープはミュージックソフト、ブランクテープを合わせると同じく全世界で年間31億巻販売(1989年実績)されるに至りました。
 そして忘れられないのが1982年のCDの登場です。
 それまで高音質の代表格と見られていたLPレコードは、CDの登場により我々の想像を超えた速さでその主役の座をCDに譲ることとなりました。
 これらの現象の背景には、誰にでも扱えるというCDの簡便性があったことも確かですが、それ以上にデジタル化がもたらした音質の素晴らしさが、すべてのオーディオファンの心を捉えたといっても過言ではないでしょう。
 このようなデジタル化の流れの中で、コンパクトカセットはますます高音質化を果たしていきましたが、アナログ方式であるがゆえに超えることのできない限界があるのも事実であり、デジタル化などによる音質改善の潜在的な要望が日増しに強くなってきたことも一方の事実です。
 この事はオーディオのミュージックソースの販売に現れてきており、CDの販売は依然伸び続ける傾向にあるものの、ACCの需要は1989年をピークに減少傾向に入ってしまいました。
 このままの傾向が続くと、オーディオ用ミュージックソフトの販売は下降の一途をたどることとなり、ソフト業界の衰退のみならず、オーディオ業界全体、ひいてはオーディオ文化そのものにも大きな影響を受けることとなります。
 そこで新たなオーディオソースとして大きな期待を担って登場したのがDCCシステムです。


【DCCの特徴】

エレクトロニクスライフ1992年11月号より抜粋

●デジタル高音質録音再生
 DCCはアナログコンパクトカセットテープ(以下ACC)と同サイズのテープに、デジタルによる高音質の録音再生を行うことができるまったく新しいデジタル録音再生フォーマットです。
 DCCの登場前でもテープ上にデジタル音声を録音、再生する機器としてはDATがありましたが、DATではビデオデッキと同様の回転型ヘッドを使用しており、機器の小型化などでの限界を持っています。
 しかし、DCCは固定ヘッド型ですので、機器の小型化に期待が持てます。
 DCCはPASC(Precision Adaptive Subband Coding)と呼ばれるデジタル音声処理技術と半導体に匹敵するプロセスによる薄膜固定ヘッドを用いたデジタル録音再生法式であるということがその大きな特徴です。
 DCCのスペックは以下の通りです。
スペックDCCMDDATCD
標本化周波数48kHz/44.1kHz/32kHz44.1kHz48kHz/44.1kHz/32kHz44.1kHz
量子化ビット数4bit(PASC圧縮)4bit(ATRAC圧縮)16bit直線/12bit非直線16bit直線
チャンネル数2ch2ch2ch/4ch2ch
周波数特性5Hz-22kHz(48kHz)/5Hz-20kHz(44.1kHz)/5Hz-14.5kHz(32kHz)5Hz-20kHz5Hz-22kHz(48kHz)/5Hz-20kHz(44.1kHz)/5Hz-14.5kHz(32kHz)5Hz-20kHz
ダイナミックレンジ105dB105dB96dB96dB
記録時間120分74分120/240分74分
エラー訂正方式二重リードソロモン符号CIRC二重リードソロモン符号CIRC
変調方式ETM(8-10変調)EFM(8-14変調)ETM(8-10変調)EFM(8-14変調)

 このスペックはCompact Discに迫るもので、従来のACCに比べると圧倒的な数値です。
 しかもACCでは避けられなかったヒスノイズ、ワウフラッタがデジタル録再の原理上、追放されるなど、カセットテープならではの簡便さに新たな性能、音質面の魅力が加わっています。

●ACCを再生できる上位互換性
 DCCは世界中に普及し、大きな音楽資産として楽しまれている従来のアナログカセットテープをそのまま再生できる上位互換性を持っています。

●テキストモードフォーマット
 DCCは最大40文字×21行の文字による情報の表示ができます。
 市販されるDCCミュージックソフトにはこの情報が記録されており、再生中にソフトテープのアルバムタイトル、アーティスト名、曲番、曲のタイトル、ライナーノーツ、歌詞などを随時ディスプレイに表示することができます。


【DCCが拓く新しいオーディオスタイル】

エレクトロニクスライフ1992年11月号より

 DCCは、これまで述べたように最新の技術による、高音質、高機能、簡便性、そしてACCとの互換性を有する夢の新メディアです。
 DCCがこれからのオーディオ生活、またオーディオ市場を大きく変化させていくということについては想像を超える大きなものがあるに違いありません。
 CDはもちろん、昨今ではBSやCSなど、高品位のデジタルソースが我々の周りに豊富に存在します。
 これらの音楽情報を高音質のデジタルで自分のライブラリにそろえることはもちろん、これからDCC化が期待できるほとんどのオーディオ機器でそれを楽しむことができるようになるのです。
 自分でデジタル録音した高音質の音楽を家庭ではもちろん、ポータブルタイプのプレーヤーでアウトドアで楽しむといった豊かな音楽ライフが出現します。
 また、それが全世界で万人に愛用されているカセットテープと同じ感覚でできるというのですからすばらしいことです。
 しかもDCCなのか、従来のACCなのかを気にしなくてもよいのです。
 自分が楽しみたいテープを無造作に選んでポケットに入れていけばよいのです。
 聴きたいものを選んでDCCプレーヤーに入れれば、DCCテープならばデジタルの音質で、ACCならばそれを最良の音質で、自動的に選択してくれるのです。
 「単に小さくすればよい」という発想を抑え、あえて従来のカセットテープサイズを選んだポイントはここにあるといって過言ではありません。
 ハードやメディアの形態に捕らわれず、豊かなオーディオライフを楽しむことこそがオーディオ機器の目的であり、音楽を楽しむという文化を育む基本であると考えれば、DCCシステムはまさに新しいオーディオ文化を拓くものであるということができます。
 一方、前述のようにカセットデッキを搭載した機器は、全世界で年間1億9千万台販売されています。
 将来はこれらの機器がすべてDCC化され、優れた音質の音楽を、誰もが、どこでも楽しむことができる。
 そういう可能性を持った新しいデジタルフォーマットがDCCなのです。


【DCCカセットの特徴】

エレクトロニクスライフ1992年11月号より

 DCCのカセットテープは今までのACCと互換性を保つためにほとんど同じ外形寸法を持っています。
 ただし、DCCのハードウェアはすべてオートリバース機能を持っているため、テープを巻き取るためのハブ穴を片面にしか設ける必要が無いので、反対側の面が完全にフラットになり、デザインの自由度が大きくなっています。
寸法(横幅×高さ×奥行き)
DCC:100.4×63.8×9.6(mm)
ACC:100.4×63.8×12(mm)
奥行きはハーフの最大値
 DCCはテープ本体を保護するため、スライダーと呼ぶ金属製のシャッターを備えています。
 さらにさまざま検出孔を持っており、DCC/ACC判別、誤消去防止、テープ長の識別が容易になっています。


【DCCのキー技術】

 フィリップスの このページ に詳細情報があった。
 現在ではページが消滅した模様。

MR(磁気抵抗)ヘッド

 DCCデッキに使われているデジタル・アナログ再生用ヘッドは、磁気抵抗素子(MRE:Magneto-Resistive Element)を利用してテープに記録された信号を読み出します。
 磁気抵抗素子は、その素子を横切る磁束の変化によって、抵抗値が変化することを利用し、ここに電流源から一定の電流を流し、磁束の変化を素子両端の電圧の変化に変換することで、信号を読み出します。
 このヘッドは、磁気抵抗素子で発生するバルクハウゼン・ノイズを低減するため、バーバポールと呼ばれる構造が用いられています。

DCCの信号処理方式"PASC"

 DCCの規格を決めてゆく中で、(1)テープ速度をACCと同じ4.7cm/secとする(2)最大記録周波数を48kHzとする(3)信号フォーマットをリニア・トラックとし、かつ8トラックを音楽信号記録に充てる(4)CDと同じレベルのエラー訂正能力を持たせるなどの条件設定を行いました。
 その結果として、信号転送速度(ビットレート)が決まってきます。
 DCCでは、オーディオ信号用には384kbit/sという数字が上記数値から求められます。
 これはRDATの1534kbit/s、CDの1411kbit/sに比べて約1/4しかありません。
 したがって、16bit固定量子化による信号記録は不可能で、新たな符号化方式の開発が必要になります。
 幸いなことに、フィリップス社は欧州企業によるハイテク技術開発のための”ユーレカ計画”のキーメンバーであり、その一環としてMUSICAMと呼ばれる新しい信号転送技術を開発しています。
 これは、データ転送レート約190kbit/sで地上波によるデジタル放送を行うもので、現在欧州で試験放送が行われています。
 この技術をDCCに応用することになりました。
 PASCとはPrecision Adaptive Subband Codingの略で、直訳すれば適応型精密サブバンド方式符号化となりますが、高効率符号化方式と読んだ方がしっくりくるようです。
 音声信号符号化の方式分類には「時間領域」と「周波数領域」とがあります。
 PASCはこの分類では「時間領域」での波形処理をフレーム単位で行うものに属しています。

DCC用薄膜ヘッド

 DCCが開発された際に、PASCと並ぶもうひとつの大きな技術上のテーマがヘッドでした。
 3.8mm幅のテープに往復録音再生で、しかも片側9トラック必要であるということは、もはや通常の巻き線型インダクティブヘッドではスペース的に収まらないことは明らかです。
 そこで近年、コンピュータのハードディスクや、VTRのヘッドとして知られるようになってきた薄膜ヘッドをDCCでも採用することにしました。


【DCCの敗因】

 このDCCページはホームページ開設当初から設けてあるページだが、97年7月からの1年半でも状況は大きく変わった。
 もはやDCC生テープは秋葉原でもめったに見ない存在になった。
 おかげでこのページも改訂が続いているが、どんどん消え去る情報のみしか載せられない。

 ソニーのミニディスクと同時期にこの世にデビューしたものの、いまではまったく差がつき過ぎてしまった。
 MDの方はいまやコンパクトディスク以来のオーディオ界の救世主である。
 かたやDCCはというと、冒頭でも書いたように息絶えた。
 なぜこのような惨澹たる結果になったかというとそれはもう アナログコンパクトカセットに録音できない ことが一番の原因であろう。
 私もこの機能がついていれば買っていた。
 いくらACCが再生できるといっても、これでは片手落ちである。
 S-VHS並みの「連続性」を私は期待していたのだ。
 さらに昔、dbxというNRを採用していた松下が絡んでいたくせに、発売されたDCCハードはどれも dbxエンコードされたテープの再生ができない というのも間抜けである。
 筆者はTEACのV-970Xというカセットデッキを所有しているが、こいつはdbxがついているが故に新型に買い替えることができないでいる。
 最近のTEACはdbxを搭載したデッキを売っていない。
 筆者宅にはdbxエンコードしたテープが少数だが存在するのだ。
 もっともこれは外付けのdbxユニット(デリンジャーあたりが手ごろか?)を取り付ければ再生はできたのであるのだが、そんなユニットをわざわざ買うのもばかばかしいので、そのままにしている。
 ACCへの録音は技術上、不可能ではなかったと思う。
 ただ、この機能をつけると、誰もDCC専用テープを使ってのデジタル録音など行わずに普通のACCを使い続けるのでは、という恐れもある。
 ちょうどS-VHSがいつまでたっても主流にならないように。
 それはともかくフィリップスよ、松下よ、もう遅いと思うが、DCCデッキでACCを録音可能とするのだ!!

 ちなみに筆者は、こんなページを開設してはいるがDCCは所有していない。
 ポータブルMDとカーMDを愛用している。
 やはり、一度MDを使ってしまうともうテープの早送り/巻き戻しのかったるさには戻れなくなってしまったのだ。


LINK

DCC系のリンクです。

日本DCC保存会本部

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