【概要】
エルカセットとはソニー、ティアック、松下電器産業の3社が共同開発した規格である。
1976年製品発売。
当時、まだまだ音質的には不満があったコンパクトカセットテープをカセットならではの便利さをそのままにハイファイ録音に使えるようにしようと意気込んだものである。
まだコンパクトカセットテープでメタルテープが発売される以前のことである。
コンパクトカセットテープはオープンリールテープに比べてあまりにもテープ幅が狭すぎた。
情報量に制限のあるコンパクトカセットテープの弱点を補うために、思い切ってオープンリールテープをそのまま用いてカセットに納めたという代物が「エルカセット」である。
発想は間違っていなかったと思う。
確かに音は良かったらしいのである。
しかし、消えた。
3社は他社にもこの規格を採用するようにはたらいたが、この3社以外に新たに参入した会社はわずかに日立のみで一般に浸透することなくすたれていった。
登場から20年以上が経過した1997年時点で、もはや開発元のソニーですら生テープの供給を停止している。
現在でも使用している人はおそらく日本全国でも小数だろう。
もちろん、3社のホームページには1行の記載も無い。
このページはそんな悲劇の規格であるエルカセットを紹介するページである。
<ちなみに>
集英社刊・ジャンプコミックス「こちら葛飾区亀有公園前派出所」第71巻にてエルカセットデッキの修理を両さんが行っている描写があります。
幅6.3mm、速度9.5cm/sという低速オープンリール同様の規格を新書版サイズ(152×106×18mm)のハーフに収めた新大型カセット。
新テープの開発、ハーフの改良、メカの進歩などで予想外の性能を実現した現在のコンパクトカセットであるが、より以上の高性能をという事からソニー、松下電器、ティアックの3社が共同開発したもの。
テープの中に0.5mm幅のコントロール用トラックを持っている事、ハーフからテープを引き出して使うため、ヘッドや走行系の制約が少ない事、3種類のテープ(1:LH、2:Duad、3:クロームとほぼ考えてよい)とドルビー機構ON-OFFが自動選択される事など、従来のコンパクトカセットに無い特徴も持っている。
エルカセット用テレコとしては、現在ソニー、松下から各2機種発売されており、高級機は一部のオープン機を上回る性能を持っている。
各メーカーの今後の動きが注目される新製品である。
EL-5 \128,000
EL-7 \198,000
・ F&Fヘッドによる2ヘッド構成
・ FG周波数サーボモーターによる1モーター方式
・ シングルキャプスタン方式
・ 正立透視型カセットローディング、ソフトイジェクト方式
・ ロジカルコントロール・フェザータッチオペレーション
・ F&Fヘッドと再生アンプをダイレクトカップリング
・ ドルビーNRシステム内蔵
・ BIAS、EQ各々3段切替えテープセレクター
・ メモリーストップ/プレイ機能
・ ワウ・フラッター0.06%wrms
・ 周波数特性25〜20,000Hz±3dB
・ SN比62dB(TYPE-2 Duadテープにて)
・ 大きさ 430(幅)×170(高さ)×320(奥行き)mm
・ 重さ10.5kg
ステレオ・エルカセットデッキEL-7の特長
・ F&Fヘッドによる3ヘッド構成
・ FG周波数サーボモーターによるモーター方式
・ クローズドループ・デュアルキャプスタン方式
・ 正立透視型カセットローディング、ソフトイジェクト方式
・ ロジカルコントロール・フェザータッチオペレーション
・ F&Fヘッドと再生アンプをダイレクトカップリング
・ ドルビーNR及びREC-CAL用発振器内蔵
・ BIAS、EQ各々3段切替えテープセレクター
・ メモリーストップ/プレイ機能
・ ワウ・フラッター0.04%wrms
・ 周波数特性25〜22,000Hz±3dB
・ SN比62dB(TYPE-2 Duadテープにて)
・ 大きさ 430(幅)×170(高さ)×320(奥行き)mm
・ 重さ12.5kg
RS-7500U \128,000
RS-7900U 価格未定
写真は昭和57年のソニーテープカタログより
モニター期間終了後は、EL-5をそのまま進呈。
ふるってご応募ください。
モニター期間は1年。
モニターの皆様には、試用レポートを提出してもらいます。
「高域の伸びがすばらしい」「コンパクトカセットに慣らされた耳には少々リアルすぎるほどだ」ソニーエルカセットご愛用者の率直なご感想です。
ダイナミックレンジの広いエルカセットの音、あなたはもうお聞きになりましたか。
もっと美しい音を。
オープンリールの音をカセットで実現できないか。
こういった考えから誕生したエルカセット。
登場以来1年、国内外で大きな反響を巻き起こしてきました。
しかし、もっともっと多くの人に愛していただきたい。
そのためには、まず、なによりもこの美しい音、使いやすさを実際に体験していただくことが先決でしょう。
そこでソニーはEL-5を用意。
ご希望者の中から、抽選で100人にお貸しします。
あなたのシステムにセットしてじっくりとモニターなさってください。
別売のRM-30(\9,800)を使用すればREC-MUTEを含むフルリモートコントロールが可能です。
すばらしきカセット野郎。
マイクロカセットからビデオカセットまで革命的に生まれてきた。
一口にカセットといってもソニーにはこれだけあります。
ハイグレードな音質のエルカセット、バリエーションの豊富な<デュアド>でおなじみのコンパクトカセット。
小型軽量のマイクロカセット。
そして、鮮明な画像のビデオカセット。
オーディオからビデオまで、それぞれに目的がはっきり。
しかも、カセットならではの使いやすさは共通です。
ソニーカセットにはいずれも、テープ作り28年の豊かな経験が思う存分発揮されています。
エルカセットは、「オープンリールの音質をカセットに」をテーマに、テープとデッキ双方の絶えまない交流から生まれました。
さらに、非常にシビアな性能が要求される、ビデオカセットの技術が生きているのです。
カセットシェルからテープを引き出してテープ走行させるアウターテープガイダンス方式などは、端的な例。
磁性面の技術から簡便性の技術まで、すべての点にわたってそのノウハウが注がれています。
自動テープ検出孔、自動ドルビーNR検出孔、リールストッパー、コントロールトラック、誤消去防止機構など、エルカセットでは一段と使いやすさも追求されています。
そして、肝心な音質。
エルカセットご愛用者のご感想によれば「オープンの4トラ19cm/sの音に優るとも劣らない音だ」「音の深みと張りがひとあじ違う」など、おほめの言葉をいただいています。
このたび、ソニーのエルカセットはLC-60SLH、LC-60DUADに、新たに録音時間90分のLC-90SLH、LC-90DUADが登場。
一方、エルカセットデッキでも3機種4タイプ。
ソフト、ハードともにますます充実してきました。
ぜひ、一度実際に手にとってお聞きください。
期間中、ソニーエルカセットデッキお買い上げの方に、エルカセットテープ割引優待カードを差し上げます。
このカードをお持ちの方には、期間内に同型のエルカセットテープを3本単位でご購入いただく場合に限り、1本分割引します。
このチャンス、有効にご活用ください。
エルカセットとはどのような規格であったのか。
これを調べるために97年GWに都内の図書館を回って文献を探してみたのだが、エルカセット登場はもはや20年前の話でもあり、まったくどこにも文献はない。
しかたがないので神田神保町の古本屋を探してみたが、ここでも技術的な解説書は見つからなかった。
しかし、新発売当時の貴重なオーディオ雑誌を発見することができた。
以降はこの記事と学生時代に見たエルカセットの技術論を元に再現していく。
エルカセットはコンパクトカセットよりもかなり大きい。
写真のソニー広告に見る通り、表面積はベータビデオカセットテープ(既に知らない人も多いのではなかろうか?)程度の大きさである。
このような大きさにした原因は、テープそのものをオープンリールのテープにしたからである。
そもそもコンパクトカセットテープは会話録音用に考案された規格なので音楽を録音するには記録できる情報量が少なくあまりにも力不足であった。
そこで目をつけたのがオープンリールのテープ規格である。
当時でも38cm/sのテープスピードで、2トラック片道録音のテープはマスターテープとして用いられていた。
エルカセットはこのオープンリールテープをカセット化したもので、音質的には理論上も実際もコンパクトカセットを上回っていた。
生録ブームの頃でもあり、一気に普及が見込まれたが、さすがに素人が生録で使うには、あまりにもコストパフォーマンスが悪すぎて実用にはならなかった。
ソニーもエルカセットデンスケを発売したが、まったく売れなかった。
エルカセットの発表後、しばらくしたのちにコンパクトカセットテープでもメタルテープが登場し、飛躍的に音質が良くなった。
メタルの出現のほか、コンパクトカセットテープの技術進歩はすさまじく、オーディオマニア以外にはコンパクトカセットのノーマルポジションテープでも十分満足のいくレベルに達した。
これではいくら音が良くても売れるはずが無いというもの。
エルカセットは音質以外にもコンパクトカセットに無い利点があった。
コントロールトラックと呼ばれるオーディオトラックとは別のトラックを持っていた。
コントロールトラックの採用により、ノイズリダクションの自動検出、曲の頭出し信号の打ち込みなど、現在のコンパクトカセットテープに欲しい機能がエルカセットでは実現されていた。
エルカセットは、カセットからテープを引き出して、デッキ側のメカニズムで走行系をコントロールする。
ちょうど、ビデオデッキのようにエルカセットデッキでもカセットからローディングしているのである。
これを「アウターテープガイダンス」と呼んでいる。
正立させたときにコンパクトカセットではテープ面が下に来るが、エルカセットでは上にテープ面が来る。
テープ装着時にはちょうどアルファベットの「M」の形にローディングされる。
そのため、ヘッド位置も自由に設定でき、また、ピンチローラーとキャプスタンのあたりも強力でテープ走行安定性は抜群である。
また、ヘッドとテープの密着度を飛躍的に向上させ、カセットハーフ内で走行させている限り避けることができないヘッドとテープとのギャップを無くすことに成功している。
だからけっきょく問題はテープそのものの大きさにあったと結論づけられるのである。
手のひらサイズのコンパクトカセットに対して、巨大なベータカセットサイズのオーディオ専用テープが受けいれられるはずがない。
でも、仮にエルカセットテープがその後のオーディオ業界の主流になっていたとしたら、ほぼ同じ大きさのカセットを使用するベータ方式がビデオ業界でも主流になっていたかもしれない。
エルカセットが世に出るのがあと3年ほど早かったら、オーディオ界でもメジャーな存在になっていたかもしれないと思う。
そう思うと、実に複雑な感じだ。
ところで「エルカセット」の英語つづりだが、私はずっと「El-Cassette」だと思っていたのだが、今回調べていくうちに「ELCASET」が正解であることがわかった。
なにゆえ、このような変なつづりになっているのだろうか?
76年5月11日 日本経済新聞 朝刊
ソニーは先に発表した新方式のオーディオ用テープレコーダーシステム「エルカセット」について商品開発を進めていたが、10日、商品化に成功、その第1弾として録音・再生装置「ステレオエルカセットデッキ」2機種と専用のレコーディングテープ「エルカセットテープ」2機種を6月中旬から7月下旬に発売すると発表した。
76年5月12日 日本経済新聞 朝刊
松下電器産業とティアックの両社は11日、ソニーを合わせた3社で先に共同開発した新方式のオーディオ用テープレコーダーシステム「エルカセット」に必要な専用録音テープについての生産・販売計画を初めて明らかにした。
松下電器、ティアック両社とも当面はテープの生産はせずソニーが一手に生産を引き受けて供給するという。
その場合、松下電器はソニーが生産するテープを買い上げたうえで松下の販売ルートに乗せ市販する。
76年8月30日 日経産業新聞
ソニー、松下電器産業、ティアックの3社は先に共同開発した新規格・方式によるオーディオ録音システム「エルカセット」に関する特許・技術情報を全面的に公開するとの方針を決めた。
それによると開発3社以外の企業が「エルカセット」を製造する場合には最低限必要な基本特許は無料、関係・周辺特許は有料のとの2本だてで公開することにしている。
76年11月16日 日経産業新聞
松下電器は、近くエルカセットデッキの大幅増産に踏み切る方針。
今年4月にソニー、ティアックと共同開発したエルカセットが順調な売れ足を見せていることからデッキの生産体制を本格化するもので、早ければ年内に現在の3倍に増強したいとしている。
発売開始以来、ソニーがほぼ独走していたエルカセット市場だが、松下の生産拡大で、にわかに熱気を帯びてきそうな様相。
77年5月10日 日本経済新聞 朝刊
ソニーは9日、松下電器産業などと共同開発した新方式のステレオ録音再生システム「エルカセット」に使う専用録音テープの特許・技術情報を公開する方針を決め、近く国内、海外のテープメーカーに通知することを明らかにした。
エルカセットはソニー、松下電器にティアックが加わり、3社で昨年春共同開発した。
誤記、新情報などありましたら Web Master まで
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